主治医の先生に、恋をした。

主治医の先生に、恋をした。

どうして先生は分かるの?

精神科に通い始めた私は、主治医の先生に恋をした。

先生の言葉は、まるで魔法のようだった。
私の心を闇から掬い上げてくれるものだった。
どんな安定剤よりも、最高のお薬だった。

当時私には、長年お付き合いしている彼氏も居た。
先生と病院以外で会うことも勿論なかったし、
患者さんに連絡先を教えることも出来ないんですよ〜と伝えられていた。

先生と付き合いたいから、自分のことをアピールしたい!

そんな気持ちも一切なかったし、あくまで先生は先生であることは理解していた。

それでも、2週に一度の通院で先生に話を聞いてもらうたびに。

どうして先生は、私の気持ちが分かるんだろう。
どうして私の悩みに、そんなに余裕で、笑いながら応えてくれるんだろう。

この人は、私が「苦しい」「死にたい」「辛い」と言っても、
それさえも、全て受け止めてくれる。

先生が毎日一緒に居てくれたらいいのに。
みんなの先生じゃなくて、私の専属医になってくれたらいいのに。

こんな思いを抱いていた。

転移性恋愛

その後私は、住まいの関係や、一人でも通院ができるような病院に転院した。
今はもうその先生にお会いすることも、一切ない。

のちに私は、「転移性恋愛」という存在を知る。

詳しくは知らないけれど、患者が先生を好きになる、というもので、
心理学的にも正式に認められているらしい。

この言葉を知って、私はあの頃の自分の感情が、腑に落ちた。

先生を好きだったのではない。
自分の生きる支えを、「先生」という存在に求めていたんだ。

他者としての理解者

先生は、他者であるからこそ、
当人と一定の距離があるからこそ、
深入りしすぎずに見守れるものもあるんだと思う。

毎日一緒に暮らしている家族や、
毎日私の感情を受け止めてくれる彼氏と、
2週に1度の診察で会うだけの先生では、状況も全く違う。

言ってしまえば、私と先生は全くの他人だ。
ただの医者と患者だ。

一方、家族や彼氏は、私を誰よりも大切にしてくれる人だ。

私を大切に思ってくれているからこそ、
私の言葉で傷つけたこともあるはずだ。

大切な人に「死にたい」と言われ続けることがどれだけ辛いことか。
今の私には理解できる。

先生は、あくまで「他者」として「客観的」に私を支えてくれる存在だった。

病院の外にも、苦しんでいる人が居る

その先生は、私の通院が終わる直前に、こんな話をしていた。

勿論仕事として辛いことはあるけれど、
僕は根本的に人と話をすることも、この職業も、好きでね。

でも、世の中に、苦しんでいる人はたくさんいるよね。
それは、病院に来てくれる患者さんだけに限らない。

医者という立場では、患者さんにしか会えないんだ。

だから僕は、もうすぐ医者を辞めるんです。

医者という立場以外からも、手を差し伸べたい。

私は先生のその後を一切知らない。

今はもうきっとお医者さんを辞められたと思う。

私はあの時初めて精神科に駆け込んで、
先生の診察を受けて、
命を救われました。

先生が、お医者さんで居てくれて良かった。

きっと何処かで

ある日の診察では、
先生の言葉の中に、こんなものもあった。

別に一生通院する必要も、一生薬を飲み続ける必要もないよ。
いつ良くなるかも分からないし、徐々に良くなっていくかもしれない。
もしかしたら、ここに来なくていいやと思える日も急に来るかもしれない。

それで貴方が診察にいらっしゃらなくなったら、
「ああきっとどこがで元気に過ごしてくれているんだろうな」
って、僕はそう思うだけなんだ。

先生。

私の病気は、今も完全に治ってはいません。
でも、先生の言葉を支えにしながら、今日も生きています。

先生の言葉のように、私の言葉も誰かの支えになれるかな。

そんなことを考えながら、
あの頃よりも少しだけ強くなった自分が、
この文章を綴っています。

沢山たくさん、ありがとうございました。

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