2018.12.14
精神科に通い始めた私は、主治医の先生に恋をした。
先生の言葉は、まるで魔法のようだった。
私の心を闇から掬い上げてくれるものだった。
どんな安定剤よりも、最高のお薬だった。
当時私には、長年お付き合いしている彼氏も居た。
先生と病院以外で会うことも勿論なかったし、
患者さんに連絡先を教えることも出来ないんですよ〜と伝えられていた。
そんな気持ちも一切なかったし、あくまで先生は先生であることは理解していた。
それでも、2週に一度の通院で先生に話を聞いてもらうたびに。
先生が毎日一緒に居てくれたらいいのに。
みんなの先生じゃなくて、私の専属医になってくれたらいいのに。
こんな思いを抱いていた。
その後私は、住まいの関係や、一人でも通院ができるような病院に転院した。
今はもうその先生にお会いすることも、一切ない。
のちに私は、「転移性恋愛」という存在を知る。
詳しくは知らないけれど、患者が先生を好きになる、というもので、
心理学的にも正式に認められているらしい。
この言葉を知って、私はあの頃の自分の感情が、腑に落ちた。
先生を好きだったのではない。
自分の生きる支えを、「先生」という存在に求めていたんだ。
先生は、他者であるからこそ、
当人と一定の距離があるからこそ、
深入りしすぎずに見守れるものもあるんだと思う。
毎日一緒に暮らしている家族や、
毎日私の感情を受け止めてくれる彼氏と、
2週に1度の診察で会うだけの先生では、状況も全く違う。
言ってしまえば、私と先生は全くの他人だ。
ただの医者と患者だ。
一方、家族や彼氏は、私を誰よりも大切にしてくれる人だ。
私を大切に思ってくれているからこそ、
私の言葉で傷つけたこともあるはずだ。
大切な人に「死にたい」と言われ続けることがどれだけ辛いことか。
今の私には理解できる。
先生は、あくまで「他者」として「客観的」に私を支えてくれる存在だった。
その先生は、私の通院が終わる直前に、こんな話をしていた。
医者という立場では、患者さんにしか会えないんだ。
だから僕は、もうすぐ医者を辞めるんです。
医者という立場以外からも、手を差し伸べたい。
私は先生のその後を一切知らない。
今はもうきっとお医者さんを辞められたと思う。
私はあの時初めて精神科に駆け込んで、
先生の診察を受けて、
命を救われました。
先生が、お医者さんで居てくれて良かった。
ある日の診察では、
先生の言葉の中に、こんなものもあった。
先生。
私の病気は、今も完全に治ってはいません。
でも、先生の言葉を支えにしながら、今日も生きています。
先生の言葉のように、私の言葉も誰かの支えになれるかな。
そんなことを考えながら、
あの頃よりも少しだけ強くなった自分が、
この文章を綴っています。
沢山たくさん、ありがとうございました。
人に話せない悩みも、今まで居場所がないと悩んでいたことも全て、ここでなら話せる。自分が一歩を踏み出せば、世界が変わる。今辛い自分は、明日には笑えるかな?そんなあなたへ。待ってるね。
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